初春には山つつじや桜で彩られる槙尾山の麓にある西明寺は、高雄山・神護寺と栂尾山・高山寺の間に位置している。高山寺からバス道路を歩いて脇道を下って行くと朱色の指月橋が現われる。清滝川のせせらぎを聞きながら、指月橋を渡ると参道の石段が現われる。
モミジに覆われた石段、二曲の石段を上った所で休憩する。眼下に滝のように流れている清滝川を眺めていると心が洗われる。石段の左側には「大界外相」と刻まれた石柱が静かに佇んでいる。ここから上は清浄な場所であることを表わした結界の石柱である。
さらに石段を上ると古風な建物の表門にたどり着く。秋には、東側(右側)の土塀の白壁に紅葉の美しい色彩が映えて、目を楽しませてくれる。表門を通りぬけると正面に本堂が現われる。元禄十三年(1700)に桂昌院の寄進によって再建された欅造りの建物である。
本堂に向かって歩いていくと、右側に聖天堂が現われる。拝殿前に白幕が掛けられており、お供え物の大根と御団の紋が染められている。秘仏の歓喜聖天のご利益を表している紋である。拝殿机の上に置かれている「倍返りお守り」を買って、歓喜聖天へお願いしてみては如何でしょうか。さらに正面に向かって歩いていくと、本堂の梁上に掲げられた扁額が目に入ってくる。弘法大師(空海)独特の書体で、「霊山鷲心(空海)」と書かれている。
本堂の中に入ると本尊の釈迦如来像(鎌倉時代)や千手観世音菩薩像(平安時代)、愛染明王像(鎌倉時代)など多数の仏像を拝観できる。特に、慈悲深い姿の千手観世音菩薩像を拝していると心が落ち着いてくる。また、静寂の中、堂外(東側)の苔庭を堂内から眺めると、二幅の額縁に入った風景画のように映って、心を朗らかにしてくれる。また、初夏の新緑、秋の紅葉といった色々な色彩のモミジを楽しむことができる。本堂の東側の廊下に出て、聖天堂へつながっている渡り廊下を渡って振り返ると、趣のある苔庭の眺めを楽しむことができる。また、苔むした自然石の上に置かれた宝篋印塔を間近に拝することができる。
本堂の周囲の廊下を歩いて西側に出ると客殿に至る。造営は本堂より古く、江戸時代前期に移築された建物である。当時は食堂と称して、僧侶の生活や戒律の道場として使用されていた。秋には、茶室として使用され、抹茶を楽しむことができる。また、客殿への渡り廊下の傍に池があり、水面に映る逆さモミジを眺めるのも楽しみのひとつである。さらに、梅雨期には、美しい姿のモリアオガエルが産卵し、静寂の中、カエルの鳴き声を楽しむことができる。
本堂を拝観して表門に向かって歩いていくと、右側に高野槙の古木が目に入ってくる。樹齢700年の古木で、槙ノ尾(地名)の由来になったと云われている。枝振りや幹の太さから樹齢を感じさせる古木である。この古木と対面するように、鐘楼が建っている。元禄時代に造営された建物で、梵鐘が掛けられている。毎朝・毎夕に、時を告げる鐘として梵鐘が打ち鳴らされる。静寂の中、周囲の山々に消えていく鐘の響きに、自然と心が安らかになる。
鐘楼と槙の古木の間を通りぬけて裏門に向かって歩いていくと、右側に心字池の傍に立っているアショカ王の石柱が現われる。ルンビニ(ネパール国)の石柱に比べるとかなり小さいが、4頭の馬が彫られているのが特徴である。大正元年(1912)に小松寅吉(福島県)によって彫られた名作である。さらに歩いていくと、左側に茶園が現われる。江戸時代に栽培された茶園で、当時、修行僧の日常の生活の中で喫茶に供されたそうだ。前方の高雄山を見上げながら裏門を通りぬけ、モミジに覆われた坂道を下っていくと灌頂橋にたどり着く。初夏には、ホタルが舞い、カジカが美しい鳴き声をあげ、優雅な一時を楽しむことができる。槙尾山と高雄山との谷間を小川が流れており、灌頂橋付近で清滝川と合流している。その様子を見ながら、灌頂橋を渡って右手の道を歩いて行くと、神護寺に至る。
※当寺は駐車場がございません。
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